初代フェアレディZの高性能バージョン Z432Rへのリスペクトを込めた「FAIRLADY Z CUSTOMIZED EDITION」や、2024年モデルの日産GT-Rなど、東京オートサロンの日産ブースではクルマ好きの気持ちを昂ぶらせるスポーツモデルの展示が注目を集めていたが、実用的で親しみやすい軽自動車を主役にした提案にも、なかなか興味深いものがあった。ひとつは「SAKURA e-share mobi KYOTO CONCEPT」、そしてもうひとつは「ROOX SUITE CONCEPT」である。

リアルとファンタジー、どちらにも軽自動車の魅力がいっぱい

「SAKURA e-share mobi KYOTO CONCEPT」は、実際に進行中のプロジェクトで使用されることになる“日産サクラ”なのだが、「e-シェアモビってなに?」という方もいらっしゃることだろう。日産は「ニッサン インテリジェント モビリティ」の取り組みのもと、クルマの「電動化」、「知能化」に向けた技術開発を進めている。「NISSAN e-シェアモビ」は、電気自動車ならではのドライビングの楽しさ快適さを提供する電動化技術と、自動運転技術や自動駐車機能などの知能化技術を、とても気軽に体感することができるカーシェアリングサービスなのである。

もっと簡単に言えば、日産のBEVとe-POWERの各車種が揃ったカーシェアリングというわけで、現在は日産リーフ、日産サクラ、そしてセレナ、キックス、オーラ、ノートの各e-POWERが利用でき、今後は日産アリアもその仲間に加わる予定。そして「SAKURA e-share mobi KYOTO CONCEPT」は、このe-シェアモビの「A PITオートバックス京都四条」に配備することを想定しており、会場では同じく配備予定の日産アリアも一緒に並べられていた。

こだわったのは地域柄を内外装のカスタムでセンスよく演出すること。そこで和モダンのテイストや桜の花びらをイメージしたデザインを、ラッピングやステッカーなどでちりばめている。さらにインテリアには、業務提携を推進しているオートバックスセブンが開発したインテリアパネルとインテリアラバーマットを装着しているのが特徴だ。

「SAKURA e-share mobi KYOTO CONCEPT」が実際にカーシェアリングで使用されることを前提にしたクルマだったのに対して、「ROOX SUITE CONCEPT」はファンタジーの世界から抜け出してきたようなクルマだ。「ルークス」も先進技術が詰まった軽自動車だが、フロントフェイスをじっくり眺めなければベース車が分からないほどモディファイされている。

左側のドアは大きく開くガルウイングになっており、室内は究極のリラックス&ラグジュアリーなスペースに仕立てられている。シートは運転席のほかにはオットマンを装備した豪華なリアシート1席のみ。まるでエアラインのファーストクラスのような空間で、すべては二人だけの世界。ゆったりとドライブを楽しむことができる。

さらに後方にはクルマのデザインに馴染んだコンパクトなトレーラーを組み合わせており、ハッチを開くとその中にはなぜか電子ピアノが・・・。実はこの「ROOX SUITE CONCEPT」は、開発陣が想定したストーリーに則って、夢を具現化するようなカタチで製作されている。

思い描いたのは、「60代前後の夫婦が自然豊かな場所で行われる娘の結婚式に出かけるためのクルマ」。大切なパートナーとともに特別な日をお祝いするため、リラックスできるラグジュアリーな空間に身を置き移動できるようにしたというわけだ。ブラックにゴールドをあしらったボディカラーも、フォーマルファッションをイメージしているという。

そして気になるのが電子ピアノだが、これは結婚式でお祝いの演奏をするためのものなのだそう。父親が一生懸命練習した、娘に贈るサプライズプレゼント、といったところだろうか。ひとつの物語に沿ってコンセプトカーを構築するというのは珍しいことではないが、ここまでピンポイントで“使い方”を想定している例はなかなか見ない。ある意味潔いその作り込みに拍手を送りたい。